魔法の絨毯がゆっくりと宮殿の入り口まで下りてきて、そしてまず最初にラクダを下ろしました。リドワーンは隣に控えた飼い犬がラクダの大きさにびっくりしておろおろするのを宥め、次に降りてきた銀の魔神を観察します。ジニーは不貞腐れた顔に怒りの色を混ぜ、朝に宮殿を出て行った時と同じように、シャム猫をその腕に抱いていました。
「お前なあ、空気ってもんがあるだろ」
「うるさい! 二度と勝手にあんなことしてみろ、次はヒキガエルにしてやるからな!」
「せめてトカゲに」
「ふざけるな、私はトカゲが世界でお前の次くらいに嫌いなんだ!」
「お前の嫌いはどっちがどっちだか分からん。お前ほどややこしいやつはこの国にはいないだろうな」
不貞腐れた顔のシャム猫と、何故か怒っているジニーの口論は、二人が目の前に立つリドワーンに気付くまで続きます。第一王子がにやにや笑いながら、ジニーに抱かれているシャム猫を見つめました。
「そろそろ妃を娶る気になったかな?」
イフティシャームは目を半分閉じて、兄王子を睨みました。
「全部知ってたのか、この腹黒」
「物事を単純に捉えただけさ。どうだ、良い宰相になりそうだろ?」
「今の内に枝打ちしときたい気分」
「第一王位継承権者を差し置いて、第二が華燭の儀を挙げるのも格好がつかないしな。私の為にも、さっさと身を固めてくれ」
猫はあくびまじりにうにゃうにゃ唸り、半分閉じた目をもっと細くして、リドワーンの肩にたかる白い鳩を順番に見つめます。不思議なことに、連中が世界で一番美味しい食べ物に見えました。舌なめずりしながら言います。
「妃なあ。俺、妻は一人でいいや」
「おや、ずいぶん謙虚じゃないか?」
「だって、一人の手綱を握るので精一杯だろ。暴れ牛が千頭いたって適わないような女だぜ」
髭が後ろによじれ、白い牙が半分覗くような微笑を浮かべて弟が言います。リドワーンは猫と魔神を見比べて、「それもそうだね」と溜飲を下げるように笑い返しました。
一拍間を置いて、ようやく何もかもがリドワーンに筒抜けだったこと、そして今話題になっているのが自分であることを悟ったジニーが、葡萄酒のように真っ赤な顔でイフティシャームを締め上げました。シャム猫がヒキガエルみたいな声で抗議の声を上げるのを、桜の魔神はヒステリックに封殺します。「うるさい、うるさい! き、き、妃だなんて、誰が誰が誰が」
その時、死にかけた猫の耳に騒がしいたくさんの足音が飛び込んできます。ああ、また来た、とうんざりした思いでイフティシャームはジニーの手に優しく爪を立てました。
「あらまあ! まだ猫のまんまじゃないの? 何しに行ったの、イフティシャーム!」
姉姫の大声にびっくりした白い鳩が、リドワーンの肩から一斉に蒼穹に向けて飛び立ってゆきました。
